スズメバチ退治
虫めがね vol.48 No.6 (2022)
ことしの七月に、わが家の二階の軒下にスズメバチが巣を作っていた。コガタスズメバチである。コガタスズメバチの巣は大きくなると直径三十㎝くらいになるが、わが家の巣はまだ営巣途中のようで、直径十五㎝くらいである。スズメバチは大変危険な昆虫で、わが国では毎年十数人が刺されて亡くなっている。今の日本で最も危険な野生動物は、北海道のヒグマでも奄美や沖縄のハブでもなくスズメバチだと言われている。
数年前に隣家の軒下にスズメバチが巣を作った。この時は、スズメバチ駆除の専門業者に頼んで、巣を駆除してもらっていた。わが家の二階の窓からよく見えたので、駆除の状況をじっくり観察させてもらった。三人の業者がやって来た。二人は頭にヘルメット、全身は白の防護服で、まるで宇宙服のような格好で屋根に上り、ハチの巣めがけてハチエアゾールを噴射していた。噴射中もハチはあたりを激しく飛び回り大変危険な状況であった。しばらくするとハチの活動も治まり、静かになったので、大きなハチの巣を除去して持ち帰った。この間、一時間あまりであったろうか。
スズメバチ駆除を専門業者に頼むと駆除費用が数万円必要と聞いた。わが家のスズメバチの巣はまだ小さいので自分で駆除することにした。まずホームセンターでハチ用エアゾールを二缶買ってきた。これはハエ・蚊用エアゾールと違って噴射殺虫液が直線状に七~八mも到達できるように設計されている。わたしは頭には蚊対策用に市販されている網付きの帽子をすっぽりかぶり、上半身は白の長袖ワイシャツ、手は軍手を付け、一応の防護体制は調えた。夜の九時半過ぎ、スズメバチが活動を停止した頃、二階の窓から上半身を乗り出して、約二m先にあるハチの巣目がけてエアゾールをたっぷりと噴射した。
翌朝、外に出ると五頭のスズメバチの死骸が転がっていた。翌日もまだスズメバチが巣の周囲を飛んでいたので、夜になって同じようにハチエアゾールを噴射した。三日目も数頭のスズメバチがいたので、同じように夜になって噴射した。四日目はさすがにスズメバチの姿は認められなかったが、念のために再度噴射した。合計四回の噴射で見つけた死骸は九頭であったが遠くに逃げて死んだのもあろうから、実際はもっと沢山のスズメバチがいた筈である。その後、十月の今に至るまで軒下にスズメバチの姿は見ないのでスズメバチ退治は成功したと思える。
わが家のスズメバチ退治が終わって約一ヶ月後に、今度はわが家から数軒先の家にスズメバチの巣が見つかった。ここでは換気扇の中に巣を作ったようで、除去は難しく専門の業者に依頼して除去してもらったようだ。
♪柿熟れた 烏が知らす甘い時期
(赤タイ)
グラウンド・ゴルフの楽しみ
虫めがね vol.48 No.5 (2022)
わたしが今の住所に引っ越した頃にテニスを始めたので、今では三〇年近く近所の仲間とテニスを楽しんだことになる。ところが今年に入って、テニスのプレー中に左脚の肉離れと内出血を起こし、約一ヶ月間苦しんだ。それが治りテニスを再開したら、今度は脚が縺れて転倒するなどの事故が起きた。そんなことが続き、そろそろ高齢化による体力の限界かなと自覚するようになった。それで週二回ほどやっていたテニスをしばらく休むことにした。
長年やってきたテニスを止めるとなると運動不足となり健康上良くない。いろいろ考えた結果、日頃からテニスコートの隣の運動場でやっており、以前から見て知っていたグラウンド・ゴルフを始めることにした。
わたしが参加している地元のグラウンド・ゴルフ同好会は会員の平均年齢は恐らく七〇歳を優に超えると思える高齢者の同好会である。しかも女性会員が半数を超えるくらい多い。毎週月曜日と木曜日の午前中に競技を行っているが、毎回ほぼ四〇~五〇人の参加者があり盛況である。
グラウンド・ゴルフは約四〇年前に、高齢者の健康づくりを目的として鳥取県泊村で生涯スポーツ活動推進事業として、創案された新しいスポーツである。「いつでも」「どこでも」「だれでも」できるスポーツを目指している。高齢者はもちろん、脚に少々障害があっても両腕が振られれば可能であり、そういう人も参加して一緒に楽しんでいる。
わたしはグラウンド・ゴルフを始めてまだ数ヵ月なので、詳しくはないが、逆にいろんな発見がある。まず、参加者は高齢者が多い。若者には物足りないのだろう。しかし、ゴルフと違って高齢者用のゴールド・ティや女性用のレディス・ティはなく、みんな同じ場所からスタートする。ゴルフのようなハンディキャップもなくみんな平等、対等である。それでも高齢の女性が男性陣を抑えて堂々優勝しているのは素晴らしい。ご夫婦でプレーに参加している人も多いが、奥様がご主人の成績を上回る例も多い。ジェンダー・ギャップは全くない非常に民主的スポーツである。
ゴルフには無いルールで、ホールインワン(一打でホールに入ること)を達成するとスコアを三打マイナスできるというのがある。これは大変魅力的なルールで、参加者は何とかホールインワンを捕ろうと競い合っている。わたしは習い始めの初心者であるが、すでにホールインワンをいくつか捕った。
♪グラウンド・ゴルフ続けて 加齢逃げていく
(赤タイ)
平均寿命と健康寿命
虫めがね vol.48 No.4 (2022)
わたし自身が後期高齢者の仲間に入ったせいか、新聞などを読んでいると、「寿命」という文字が目につくようになった。
わが国の平均寿命は令和二年現在で、女性が八七・七四歳、男性は八一・六四歳である。これは、女性は世界一位で、男性はスイスに次いで世界二位である。なかなかの長寿国である。この我が国の長寿化は長い間かけて徐々に進んだものではなく、一九四七年頃から急激に長寿化が進んだようだ。わたしが子どもの頃は、会社の定年は五五歳であったし、六〇歳と言えば長寿者として還暦のお祝いをした。七〇歳の老人と言えば非常に珍しい高齢者であった。八〇歳の高齢者などは身近には居なくて、新聞などで長寿者として紹介されているのを見るようであったと記憶している。でもこの平均寿命の数字には少し違和感がある。なぜなら、生後数ヵ月で亡くなった人もこの平均値には加えてあるし、寝たきりの高齢者も入っている。それで健康寿命というのを調べてみた。これは女性が七五・三八歳、男性は七二・六八歳となり、男女の差は小さくなる。健康寿命とは、WHOの定義によると「心身ともに自立し、健康に生活できる期間」とある。要するに人が誰かの介護を受けずに、日常生活を支障なく送れる期間である。平均寿命と健康寿命の差は、男性が八・九六歳に対して女性は一二・三六歳と大きい。女性の方が介護を受けながらも、まだまだ頑張って生きているということらしい。
時間は万人に平等に与えられ、過ぎていくが、年齢は平等では無いようだ。わたしが日頃楽しんでいるテニス仲間の先輩に八七歳という男性がいる。彼は脚・腰ともに敏捷でテニスの玉が来たら、その方向へ素早く動き、すばやく打ち返す。わたしなどは二ゲームもすると疲れて休憩を必要とするが、彼はそのまま三ゲーム目も続けてやるし、苦にもならないようだ。とても八七歳とは思えない。七〇歳代の前半ではないかと思える。彼はテニスをやらない日は近くの標高三〇〇mくらいの小山に登ったり、趣味も多彩で麻雀や陶芸や家庭園芸を楽しんでいる。長年連れ添った伴侶に先立たれると、特に男性は気が滅入ってしまい、元気が無くなり、急速に老けてしまうのが一般的だ。しかし、彼は七年ほど前に奥様が亡くなられたが、今では自分で掃除洗濯をし、食材の買い物にも出かけ、自分で料理をして、楽しんでいるように見える。
今年六月に世界最高齢で太平洋をヨットで単独無寄港横断を達成した堀江謙一氏は八三歳という。三ヵ月以上かけて航海し、兵庫県西宮市のヨットハーバーに到着した時の彼の言葉は、
「今が青春まっただ中」
であった。
♪八十路超え まだ負けられぬスニーカー
(赤タイ)
わが家の庭の野鳥たち
虫めがね vol.48 No.3 (2022)
わたしが住んでいる家から南へ一五〇mほど離れた所には、木々が生い茂った小さな森がある。その森はさらに南に向かって標高二八四mの石切山という小山に連なっている。このような環境に住んでいるお蔭で、春になるとわが家の庭にはいろいろな野鳥がやって来る。メジロ、ウグイス、スズメ、ツバメ、ヒヨドリ、イソヒヨドリなどである。カラスもやって来るが、カラスが来ると他の小鳥たちは逃げてしまうので、カラスは追い払うことにしている。
ヒヨドリは日頃から山野で飛翔している昆虫などを捕まえて食べているせいか、空中に放り投げた餌(パンを小さく丸めたもの)を素早く飛んで行って嘴でキャッチする。その動作が素早く見事なので、その姿に惹かれて、毎朝ヒヨドリに餌を放って空中キャッチするのを楽しんでいた。これを繰り返すうちにますます上達してきて、わたしが投げる方向を察知して予めキャッチしやすい場所に待機している。ある日、わたしが朝寝坊して起きたら、窓際に待っており、窓を「コツコツ」とつついて餌の催促をしている。
今年の春はヒヨドリの来訪は少なくて、代わりにイソヒヨドリが毎朝やってきた。雄のイソヒヨドリは頭部が青く腹部は茶色をしていて、カラフルできれいな鳥である。磯(いそ)ヒヨドリはその名のとおり、海岸の岩礁や崖などに棲息していたが、最近では市街地の工場や倉庫などの隙間で繁殖するようになったようだ。市街地の構造が海辺の岩場に類似している為であろうか。イソヒヨドリもヒヨドリに負けず劣らず、空中に放った餌を見事に嘴でキャッチする。イソヒヨドリよりヒヨドリの方が体は大きくて飛翔も素早く、放った餌を空中キャッチするのも上手い。
三月も半ばを過ぎれば、これらの小鳥たちの来訪もだんだん少なくなる。そして山野に梅やツツジや椿が花咲く頃になるとほとんどやって来なくなる。わざわざわが家にやって来てパンの屑をもらわなくても山野にはおいしい花蜜や木の実などの食物が手にはいるようになったようだ。
わたしが今の地には平成の初めに転居してきたので、はや三〇年余りになる。はじめの頃に比べると小鳥たちの来訪はかなり少なくなった。
かつては、スズメは十数羽くらいが群れてやってきていたのが、最近は数羽がやってくる程度である。住環境の改善の名の下に山林開発、道路の舗装、川の護岸工事など、人間は自然を改変(破壊?)して草木の繁みが少ない環境に変えている。それで草木を住処とする虫たちが減り、虫たちを食糧としている小鳥たちも餌が少なくなり減っていく。小鳥たちは居ても良いが、虫は少ない方が良い、という人間の勝手な論理は自然界には通じない。虫も少なくなり小鳥も少なくなった。寂しいかぎりである。
♪鵯に芸を仕込んで暇親爺
(赤タイ)
コロナ禍とオンライン化
虫めがね vol.48 No.2 (2022)
二〇一九年末に中国の湖北省武漢市で最初に感染者が確認された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はその後、世界に蔓延し、WHOはパンデミックを宣言した。このコロナウイルスはアルファ株から始まり、デルタ株、オミクロン株などと変異して、新たな戦士を世に送り込み、二年以上経った今でも、沈静化の様子を見せない。このパンデミックは人々の仕事のやり方や生活様式、さらには政治にまで変化を強いている。いずれ歴史を変えるに違いない。
その一つとして、オンライン化を見てみる。日米首脳会談や欧州首脳会議など国際会議がオンラインで行われている。わたしが関係しているいくつかの学会も、今ではほとんどオンラインである。学会の場合、例えば鹿児島で学会があると鹿児島に出かけ、その土地のおいしいお酒や食べ物を味わい、ついでに名所を見物できるという副次効果があったが、いまではそんな楽しみも無くなった。大学の講義もオンラインで行われ、学生たちは自宅に居て講義を受けている。会社の仕事もテレワークと称して会社に出社せず自宅である程度の業務はこなす。仕事の打ち合わせもオンラインで行われる。病気の場合は、患者が病院に行かなくても、オンライン診療を感染防止対策として厚生労働省は推奨している。
オンラインは人と人が接触する三密を避けることや、移動中の交通機関などでの感染を避けるために取られている方法である。それは他方、集まるための移動時間の節約や通勤ラッシュなども緩和される利点がある。超多忙な各国首脳などは時間をかけて集まる必要もないので、比較的手軽に(?)オンラインによる首脳会談が行われているようだ。大学の講義などはマスクをして大教室で間を開けて座るなどの三密対策をとって出校を認めるが、オンライン講義も並行するというハイブリッド講義なども行われている。病気の場合、病院まで遠いとか、医者がいない離島に住んでいる患者もオンライン診療なら受けられる。薬は別途、宅配便で受け取れば良い。
このような変化は将来コロナ禍が治まっても完全には元に戻らないだろう。オンラインによる首脳会談はその便利さの為に今後も続くだろう。大学の講義にしても学生たちのアンケートでは、コロナ禍が治まった後もオンライン講義は残して欲しいという意見が多数のようだ。会社勤務にしても週に何日かは出社するにしても満員電車で毎日出勤することもない。自宅でオンライン業務で問題なく仕事が出来ることを会社も社員も理解してしまった。
オンライン化は長期的にはいずれ採り入れられるICT技術であろうが、それがこのコロナ禍のおかげで一挙に加速したと考えられる。
♪怒鳴られて畏縮しておくオンライン
(赤タイ)