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夏の風物・蚊取り線香

虫めがね vol.46 No.5 (2020)

夏になり「ブーン」という蚊の羽音が聞こえてくると蚊取り線香を焚きたくなる。因みに「虫」編に「文」の「蚊」は、この羽音に由来している。日本の夏には欠かせないこの蚊取り線香は関西のある日本企業が発明したものである。今では世界中(蚊が多い東南アジアが中心)で使われている。これは、初期は古くからある仏壇線香に殺虫成分ピレトリンを含む除虫菊粉を練り込んで作った。今ではピレトリンの代わりに、合成ピレスロイドが使われている。合成ピレスロイドの方が、安全性が高く殺虫効力も良くなるように改良されている。仏壇線香のような棒状の蚊取り線香だと、一~二時間で燃え尽きて効力が終わる。これを渦巻状に成型することにより約七時間持続するように改良したところに大きなイノベーションがある。このアイデアを提供したのが、女性(先に述べた関西企業の創業者の奥方)であると言うのが興味深い。

明治二三年(一八九二年)に棒状蚊取り線香が、明治三五年(一九〇二年)に渦巻型蚊取り線香が販売されたと言うから、ほぼ一二〇年ちかく私たちの身近に使われていると言うことになる。驚異的である。ある商品が百年以上も同じ市場で受け入れられている事例はそんなに多くはない。新商品に取って代わられて市場から消えてしまう物がほとんどである。

「蚊取り線香はなぜそんなに超ロングランで使われているのでしょうか」

ある時、蚊取り線香を発明した企業の研究開発者に尋ねたことがある。彼の説明は、

「比較的安くて使いやすいことです」

確かに、マッチ一本あれば、どこでも使える。今では、家屋内のみならず、庭でこども達と花火をする時や、バーベーキュウをやっている時、盆踊りの時、それに腰にぶら下げて草取りをやったりなど、いろんなところで、手軽に使われている。

わたしは以前、蚊取り線香の厚みと殺虫効力の関係を検討したことがある。線香の厚みが大きいと中心部にある殺虫成分は線香の内部から放出されず熱分解してしまう。それだけ殺虫効力は減殺される。一方、厚みが小さいと放出は良いが線香が折れやすくなる。これを調べた結果、厚みは〇・四二cmが最適という結果を得た。それで、わが国で市販されている各種蚊取り線香を買ってきて計測したところ、それらは〇・三六―〇・四二cmの間であった。つまり、わが国で昔から経験的に製造されている蚊取り線香は最適の厚みと一致したわけである。

♪猛暑にも耐えてステテコ生ビール

(赤タイ)

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