虫が怖い
虫めがね vol.41 No.4 (2015)
先日のテレビの報道で知ったのだが、小学生用のノートの表紙には、これまではきれいな蝶やテントウ虫の写真や草花の写真などが入れてあった。ところが、最近の子ども達は、虫を怖がる。蝶の写真でも嫌がって、そのノートを学校に持って行かない。ノートメーカーも売れなくなったら困るので、虫のノートは止めて花のノートだけにするそうだ。蝶のあの鮮やかな綺麗さは、花の綺麗さと同じような気がするが、最近の子ども達には違うようだ。
私の身近に小学生の男の子を持った家族がある。母親は虫嫌いで、息子が蝶に近づいたり、セミ採りに行こうとすると、「ああ、こわい、怖い」を連発する。息子は母親のその様子を見て、次第に虫嫌いになり、蝶がひらひらと近づくと逃げようとするようになった。父親は仕事が忙しくて、息子を連れてセミ採りに行ったり、昆虫館に連れて行く暇がない。その結果、母親の影響を強く受けて虫嫌いになってしまった。人間の感性の基本的なものは小学生の頃までに出来上がってしまうので、これは残念なことである。
私が勤務している大学の授業で、学生たちを昆虫館に連れて行ったことがある。ところが、入り口に立ち止まって、じっとしている男子学生がいた。「早く中に入りなさい」と言うと、「僕は虫が怖いのです」と言う。冗談かと思ったが、良く見ると、顔色が青ざめている。どうやら本当らしい。それで彼だけは外で待っていてもらうことにした。
私の友人に蝶のコレクターがいる。彼は日本にいる蝶はほとんど採りつくし、今では東南アジアや南米にまで出かけて蒐集している。同伴の家族が観光している間にも、本人は捕虫網を持って山野を駆け巡っているそうだ。彼にとっては観光よりも珍しい蝶一匹の方がはるかに価値があるのだろう。彼は小学生の頃に蝶に魅せられて、今に至ったようだ。
日本語では、古くから「虫が好かない」、「虫がいい」、「腹の虫が治まらぬ」、「虫歯」、「虫が付く」など、虫は余り良い意味では使われていない。すべての人に虫好きになって欲しいとは思っていない。しかし、キアゲハの翅は鮮やかで美しい。鈴虫の鳴き声は澄み切ってきれいだ。ホタルが光を点滅しながら飛び交う姿は夢幻の世界のようだなど、子ども達には自然の姿を冷静に見ることができる感性を持った大人に成長して欲しいと思っている。
♪ジリジリと真夏の蝉も汗流す♪
(赤タイ)