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蚊はなぜディートを忌避するのだろうか
虫めがね vol.38 No.3 (2012)
夏になると昆虫類の活動が活発となり、虫に刺されることも多くなる。そんな時に忌避剤を買ってきて脚や腕にスプレーして、虫刺されを予防した経験をお持ちの方も多いでしょう。この忌避スプレーの有効成分がディートという化合物である。蚊がなぜディートを忌避するのかは、今のところ正確にはわかっていない。
スカンクはものすごい悪臭を他の生物にあびせて、敵の攻撃から自分の身を守る。カメムシは不快臭を発して、その間に敵から逃れる。このように、生物が他の生物を追い払う(忌避させる)のに使う化合物にアロモンというのがある。また、社会性昆虫のアリやハチは自分の仲間に危険をしらせるために警報フェロモンを出して知らせる。仲間はこれを感知して激しく興奮して危険から逃れようとする。このように生物には生合成して使っている忌避性化合物の例はある。しかし、ディートは生物が合成したものではない。人間が作り出したものであり、蚊は興奮もせず、静かにどこかにいってしまう。
ディートに殺虫性はない。蚊はディートの臭いに危険を感じて忌避しているのでもない。危険を感じてそれを避けようとするような高度な判断能力のある昆虫ではない。蚊はもともと種族保存のために危険を回避しようとする本能を発達させてはいない。蚊が産んだ子どもたち(ボウフラ)を小魚は餌としてたべる。蚊は種族保存のため、それを回避する対策はほとんど取っていない。蚊は小魚に食べられる以上に沢山の卵を産み、ボウフラを沢山作るという戦略をとっているのである。
蚊は吸血のために人に近づくのは、人の体温や、体表からでる乳酸などの匂いや呼気中の二酸化炭素を感知して人に近づく。ディートがあると蚊の感覚器(センサー)が撹乱されて、人のいる位置を見失うためであろうと言われている。つまり、人と思って近づいたが、そこに人は居なかったと感じてどこかに行ってしまうというのだ。これは厳密な意味での忌避ではない。見失っただけである。
第二次世界大戦中にジャングルで戦う米軍兵士たちが蚊の激しい攻撃をうけ、大勢の兵士たちがマラリアやデング熱で倒れた。ディートは、これを防ぐために何万という化合物を試験した結果見つけたものである。スクリーニング(試行錯誤)の結果なので、その作用メカニズムは判っていないし、これを上まわる忌避剤もいまのところ見つかっていない。
(赤タイ)