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ドングリの木
虫めがね vol.37 No.1 (2011)
「ドングリという名の木はありません」
毎年秋になると学生たちと大学近くの公園にドングリ拾いに出かける。自然観察授業の一環である。出かける前にドングリについての基礎知識を説明する。ドングリはブナ科植物の果実であり、日本には五属二一種がある。そのうち八種類くらいはアク(渋)抜きしなくても、蒸したり、炒めたり、粉にして団子にして食べられる。栗もドングリの仲間ですと言うと、「へー」と意外な顔をしている。日本に稲作技術が入ってくる前の縄文時代の日本人にとってドングリは大切な食料であったと話す。そして、食べても渋くないドングリの見分け方を説明する。筆者が子どもの頃はドングリを食べた経験があるが、いまの若者たちはドングリを食べたことがないようだ。
毎年ドングリ拾いに出かけているのだが、いつもは木の下にびっしりとドングリが落ちていたものが、今年は落果の数が少ないようだ。今夏の異常猛暑のせいであろうか。ドングリを食料としている動物には、人間以外にも、熊、ネズミ、リス、タヌキ、カケスなどがいる。今年は東北・北陸地方などで、熊が人里に現れ、事故を起こしているというニュースが多いようだ。メスの熊は冬眠中に出産し、子熊に乳を与えて保育しなければならない。熊にとっては、秋のこの時期は冬眠まえのエネルギーを体内に蓄える大切な時期である。その為の大切な食料であるドングリが少ないので食べ物を求めて、熊は人里にやって来るのだろう。人里に下れば、残飯や農家が植えたリンゴ、ブドウ、トウモロコシなどにありつける。
先日、四歳半になる孫がわが家に遊びにやって来た。裏の小山にドングリを拾いに出かけた。「どんぐりころころ」の童謡があるようにドングリは子ども達にとって身近なものである。「あ!ここにあった。ここにも!」
と喜んで拾っている。マテバシイやスダジイを拾って、家に持ちかえり、フライパンで炒めて食べた。筆者も子どもの頃に食べた記憶がよみがえり、なつかしく食べた。栗とは異なる甘みがあっておいしい。縄文人を孫と一緒に体験したわけだ。「おいしい?」と孫に尋ねたら、「うん」と素直にうなずいていた。
(赤タイ)