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高温乾燥材と生物劣化
みちくさ vol.44 No.2 (2018)
前回の続き、「高温乾燥材」の「耐朽性」「耐蟻性」の件である。
実は二〇一〇年頃、主に地方公設試の研究者による「安全・安心な乾燥材の生産・利用マニュアル」という資料が公開され、なかに「不適切な乾燥スケジュールによって生じた内部割れや熱劣化による強度低下のリスク」という表が示されている。
この表は定性的な表現にとどまっており、その点では「隔靴掻痒」といった感があるのだが、それでも、通常の高温セット程度なら、スギの強度劣化は殆どないのに、カラマツでは熱に対して非常に敏感、といった印象が示されている。
これはどうも材に含まれるヘミセルロースの種類とその熱による変質・分解と関係しそうではあるが、現在のところその確たる証拠はない。またリグニンも関係するかもしれない。この件に関してはいくつかの機関で研究が開始されているように伺っている。成果を期待したい。
もう一点が生物劣化に関わる問題である。
「抽出成分による木材の生物劣化抵抗性」については本誌三四巻二号(二〇〇八)で澁谷栄氏が記載されているところであるが、以前、愛媛大学と澁谷氏が所属する秋田県大木高研で共同し、熱処理したスギ材の耐蟻性を調べたことがある。その結果は木材学会誌(五〇号、二〇〇四)で「スギ心材の抗蟻性に寄与する主要構成成分には三種あり、それらのうちフェルギノールのみが高温による影響を受けにくいため、この成分を多く含む心材では高温乾燥による抗蟻性は低下しなかった。ただし、同じスギ材でもこの成分が少ない個体もあって、この場合には、高温乾燥によって耐蟻牲が無くなる」と報告している。
耐蟻性のみならず「腐朽菌」に対する抵抗性を付与する成分にもこれと同様の傾向があるのだとすれば、樹種や同一樹種でも品種や生育環境ごとに高温処理による影響を調べておく必要があろう。
実に大変な作業量になりそうだが、学会の研究会でこれまでに実施されている試験結果をまとめてみるのも一つの方法かもしれない。いずれにしても「木材学」としては実学と直結した非常に重要な研究テーマになると思う。どこかで予算が取れませんかね。
(徒然亭)