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「男はつらいよ」に残された風景
みちくさ vol.42 No.6 (2016)
前回の「山田洋次監督が切り取った風景」の件の続きである。
映画「男はつらいよ」のロケ地を実際に歩いた、というサイトがいくつかあって、これらを眺めているだけで、なかなか面白い。
鉄道に限れば「旅と鉄道:寅さんの鉄道旅」という恰好の参考書もあり、これによれば、蒸気機関車が出てくるのは、第二から二二作までの十作品だそうである。
有名なのは第五作(一九七一年撮影)で、この小樽築港機関区やSL追いかけの場面は当時の国鉄の全面協力とのこと。機関区でちらっと見えるC62-2は今も京都鉄道博物館で動態保存されているが、疾走していたD51-27はこの撮影時には既に翌年の解体が決まっていたという話である。
筆者の出生地、小樽はこれ以外に一五作(七五年)と二二作(七八年、奇しくも最後のSL登場作品)にも出てくる。
一五作では今は無くなった青函連絡船と小樽運河の当時の風景がしっかり収められている。
二二作はその僅か三年後。ここではマドンナの故郷として、エピローグ的に、いささか唐突に小樽の正月風景、遠景それに運河が画面いっぱいに広がる。ただし、この間僅か三十秒、寅さんは出てこず、コタツでさくらとおばちゃんがマドンナ(大原麗子)から送られてきた小樽の絵葉書を見ている。その、さくらのセリフ、「よさそうな町ねえ、小樽って…」。
そういえば、小樽市が老朽化した倉庫群を取り壊し、この運河を埋め立てて、そこに六車線の大道路を建設するという案を出したのは六六年。これに反対する住民運動が起こり、それが十年以上続いたというから、これらの作品の撮影当時は、その運動の真っただ中であったわけだ。山田監督がこのことに無関心であったとは思えない。
その後いくつかの紆余曲折があり、最終的には、市の埋め立てプランの一部修正・運河の一部保存で決着、八六年、小樽臨港線が開通、散策路やガス灯が整備され、九六年、都市景観百選を受賞した、ということなのだが、その前の姿が「これ」なのである。
この小樽に限らず、第五作の東京ディズニーランドになる前の浦安など、かつての日本の風景は「男はつらいよ」のあちこちに出てくる。それもこのシリーズを不滅のものにしている理由だろう。
(徒然草)