短期記憶
みちくさ vol.41 No.3 (2015)
「先週、××研究会の懇親会のあと、年寄り五人で二次会に行きましてね。何せ平均年齢七〇くらいだから、若い人に一緒に行かないか、って声をかけても、みんな怖がって逃げるんよね。」
「年寄りってどなたたち?」
「えーっと。A先生、B先生、C先生、それと僕。あと一人は……。えーっと、元×大学で××を専門にしていたあの有名な先生…。ほら…。」
「えっ。どなた?」
「あのぅ、少し小柄で、顔の××い、あの有名な先生。」
「あぁ、あの先生?分かる分かる。えーっとなんとおっしゃたっけな、お顔は浮かんでくるんだけども。」
そこで頭の中の人名録を五十音順に繰っていく。
「あっ、X先生。」
「そうそうX先生、X先生。…しかしその面子じゃ、確かに若い人は怖がるわなぁ。」
これ、久しぶりに某先生と一献傾けた、そのときの会話(伏字が多く恐縮)。
思い出せなくなるのは、まず固有名詞、次いで名詞だそうだ。そして動詞、形容詞を思い出せなくなると重症という。 とくに人の名前は画像データとの対比も怪しくなる。
つい先だっても某会で「先生、お久しぶりで…」と声がかかった。そして「その節はお世話になりました」と続き、名刺を頂いた。ただこちらは「どの節」だったか一向に思い出せない。で、話をしながら過去帳(?)を探し、確かに面識はあったことを確認して、まぁ一件落着、と相成る。
物の本によれば記憶は維持される時間によって「超短期記憶:視覚では1秒弱、聴覚では約4秒間保持」「短期記憶:約20秒間保持」「長期記憶」に分類され、短期記憶情報が、何度か繰り返されることで長期記憶として定着していくのだそうだ。
脳の神経細胞は150億個以上、20歳以降1日に10万個以上減少していくとのこと。ならば今どのくらい脳の神経細胞が残っているかと計算してみると130億個ほどになる。かなり減ったと見るべきか、はたまた、まだ十分残っていると見るべきか。
さて、某先生との会話の終盤、「先ほど思い出せなかった先生のお名前、何でしたっけ?」
(徒然亭)