猫も博士も
みちくさ vol.40 No.6 (2014)
「猫も杓子も」という言葉がある。なんとも不思議な単語の組み合わせで、随分気になっていたものであった。
落語の「やかん」では何でも知っていると自負する横丁のご隠居がこの言葉の語源を「女子(めご)も赤子(せきし)も」と説明している。これを聞いたとき、妙に納得してしまったのだが、少し調べてみると「禰子(神主)も釈氏(僧侶)も」からきた、などいくつかの説があって、正確な語源はよくわからないらしい。
その「猫も杓子も」気味なのは、最近の木材利用に関する研究である。いわゆる「木材学」を基盤した研究者だけではなく、専門分野も建築・土木・エネルギー・環境から流通・経済にまで広がっている。
たとえば、今年の建築学会大会。登録参加者約1万人、発表件数は8千くらいだろう。
うち木材に関するものは構造系303、防耐火系37、材料系29(主に住宅の耐久性)、その他環境系15(環境負荷・バイオマス関連)、この他あわせて400近い。加えて「木質構造」、「防火(木質耐火構造)」、「地球環境(木材流通のデータベース化とあり方)」というPDがあって、いずれも盛況であった。
構造系の「腐朽・蟻害」では7件の発表があった。ここでの発表者のほとんどは木材学会会員でもある。
もうかなり以前、当時、同じ所属にいたS君が木材腐朽と接合性能の関係を建築学会で報告したことがある。講演の後、木質構造研究のリーダーのお一人のN先生は「あれはすごく大事な研究だけれど、建築学の出身者には手が出せない分野だよなぁ」とおっしゃっていたのを思い出す。
ところが「地球環境」PDの方はといえば、これが、失礼ながら、結構怪しい。パネラーであった木材流通関係のMさんが、開口一番、『先日、林野庁に赴いた際、建築学会での企画意図をお話ししたところ「そんなことできるのかなぁ」といわれた』と述べていたくらいである。木材流通をスティールやコンクリート並みの状態にしたい気持ちも十分にわかるが、…。
木材系の発表件数はこの30年間でおよそ10倍。20年前の阪神・淡路大震災時で100を超え、今では、テーマにかなりの「はやり廃り」はあるものの、毎年コンスタントに300くらいで推移している。
コンクリートから乗り替えてこられた先生も結構多い。それはそれでいいことなんだろうが、あまり知らないところで、随分怪しげな「木材学」「木材流通学」が語られている。
猫だけならまだしも「博士」が語り始めると始末が悪い。
(徒然亭)