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樹洞の住人、オオチャイロハナムグリ
木くい虫 vol.38 No.5 (2012)
ハナムグリとは「花潜り」のなまった名前であり、その名のとおりハナムグリ類には花に潜る種が多い。実際クロハナムグリやコアオハナムグリ等は庭の花上でよく見かける。しかし全く花を訪れず、もっぱら樹液から栄養を摂取しているシラホシハナムグリ等の種もいる。前者のハナムグリは花蜜を好む「甘党」で、後者の種は糖が発酵したエチルアルコール(お酒)を好む「辛党」といったところであろうか。中には花も樹液も訪れるシロテンハナムグリのような「両党使い」もいる。ハナムグリ類は直接樹木を加害することはないが、幼虫が朽木や樹洞内のフレークを食べる種が多く、樹木と関係の深い昆虫である。
ここに紹介するオオチャイロハナムグリは日本産ハナムグリ類の最大種であり、花を訪れないハナムグリである。本種の幼虫は大木の樹洞内のフレークを食べる。したがって成虫も樹洞内で見つかることが多いが、昼間には樹洞から出て飛翔することもある。天然林の伐採などにより樹洞を持つ大木が少なくなったためか、本種の個体数も減少しているようである。本種は本州、四国、九州に分布しており、近畿地方では高い山に棲息している。写真の個体は氷ノ山のトチの大木の樹洞内で採集したものである。筆者は紀伊半島や四国の山でも飛翔中の本種に出会ったことがある。
オオチャイロハナムグリ以外にも樹洞を住処にしている昆虫は結構多い。有名なヤンバルテナガコガネは沖縄本島北部のみに棲息し、シイ類の樹洞内で見られるそうである。ヤンバルテナガコガネは大変貴重な種であり、国の天然記念物に指定されている。ヒゲブトハナカミキリ、ベニバハナカミキリ、ヒラヤマコブハナカミキリなども樹洞棲の種である。樹洞に棲息する昆虫には希少種が多い。
(M・H)