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宮城県慶長使節船ミュージアム(石巻市)における復元木造船(サン・ファン・バウティスタ号)の保存事業支援活動の報告(2011年)
宮城県慶長使節船ミュージアム(宮城県石巻市)の復元木造船(サン・ファン・バウティスタ号)の保存修復に関わる調査事業については震災以前の2006年から日本木材保存協会(以下JWPA)は、同ミュージアムの依頼を受けて、京都大学の藤井らを派遣し、調査活動を継続してきた。2010年には調査結果に基づき、長期的な維持管理の方針が作成され、また2013年の慶長使節船の出帆400年に向けて本格的な船体の補修作業に取り掛かるところであった(写真1)。
2011年3月の東日本大震災では同船も被災した。幸い沈没や流出などの被害は免れたものの、マストの折損など大きな破損が生じた(写真2)。また同船周囲の展示設備や維持管理設備は完全に流失してしまった。震災直後からミュージアムは現在被災民の避難所や文化財レスキューのための拠点となっており、船の復旧などには手が回らない状態にあった。一方同船は世界でも珍しい大型洋式木造帆船で、後世に残すべき貴重な文化資産であり、同館では奇跡的に流失を免れた同船を今後復興のシンボルとして整備したいと考えていた。
以上の事情を背景に、日本木材保存協会は、同船の復旧の活動を継続的に支援すべく日本財団ROADプロジェクト「東北地方太平洋沖地震 災害にかかる支援活動助成」の申請を行った。
幸い申請は採択され、これを用いてミュージアムでは木造船の破損状況の調査や調査のための周辺環境の整備を行った。また補助金は現在もなお復旧していない展示設備周辺での補助電源の他、津波で流出した工具類や用具の調達にも用いられた。
ミュージアムでは震災直後から同船の復旧や周辺整備に着手してきたが、同ミュージアムが避難所になっていたり、文化財レスキュー活動の拠点となっていたことの他、資金や人材確保が困難な状況にあり、船の本格的な修理などが困難な状況にある。そのため本船の木部の劣化は現在も進行中であると推定される。危険性の判定を含めた早期な対応が必要であるが、本事業はその一環として有効に実施された。
その後本格的な船の復旧のための予算(文部科学省)が認められ、平成24年度からは船の復旧とミュージアムの再開に向けた動きが本格化する。この事業を通じて日本木材保存協会は震災復興のために微力ながら貢献できたといえる。木造船の復旧と維持管理については今後も木材保存関係者の協力や支援が欠かせないため、継続的な木材保存協会からの協力が望まれている。
▲ 震災前のサン・ファン・バウティスタ号(写真1)
▲ 被災した同船(2011年9月)(写真2)
▲ 復旧工事中の同船(2011年9月22日)(写真3)