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診断技術の研修会の見聞録

第11回木材劣化診断実地研修会・兼更新講習会に参加して

1.はじめに

平成26年7月15日㈫,第11回木材劣化診断実地研修会・兼更新講習会がキャンパスプラザ京都にて開催された。本研修会は座学だけでなく,劣化診断を行う際に参考となるデータが収集できる,さまざまな機器の使用方法を各人が漏れなく手にとって学ぶことの出来る講習である。

本研修会・講習会は,3年毎に更新が必要な木材劣化診断士資格の更新講習会も兼ねている。私自身も更新を兼ねてこの講習会に参加した。劣化診断は行っていたが,取り扱わない機器もあり,その使用方法,劣化診断の基本となる一次診断を学び直す良い機会であった。

また受講することで日本木材保存協会よりレジストグラフが借りられるようになる。これまで価格面でハードルが高く利用出来なかったレジストグラフがこの講習を受けることで利用でき,よりレベルの高い診断を行えるようになる。この貸し出しも木材劣化診断士の資格が実地を重視したものであると感じられた。

以下にその講習会の概要を報告する。

2.研修会概要

受講者は17名。参加者の業種は防腐防蟻薬剤,防腐防蟻処理木材の製造・販売,木材加工・販売する業界,住宅業界に属する人が多かった。

講師は京都大学農学研究科の藤井義久先生,横浜国立大学名誉教授の矢田茂樹先生,独立行政法人森林総合研究所の原田真樹先生,京都大学農学研究科の藤原裕子先生の4名であった。

今回の研修は一次診断のポイント,二次診断機器の操作方法,機器による実際の測定・診断,診断報告書の書き方と注意点が主な内容となっていた。

3.研修内容

10時半に会議室に集合し,午前中に一次診断のポイント,午後より二次診断機器の操作と実習,その後に診断報告書の書き方と注意点の講義が行われた(写真1)。

3.1 一次診断のポイント(講師:藤井先生)

写真1 講義風景

一次診断の講義の前に,協会のアンケートでこれまでに劣化診断された件数が示された。

劣化診断の件数は25年度より件数が多くなっていることが示された(およそ2.5倍)。

これは公共建築物等木材利用促進法や,住宅ストック活用リフォーム推進事業などにより,劣化診断に注目されているためと考えられる。また診断に際し,現在の設計士の数だけでは木造住宅の診断までに時間的に手が回らないため,政府より民間の診断士を活用しようとする動きがあり,今後,さらに木材劣化診断士の需要が増えるかもしれない。

講義は配布資料をもとに行われた。一次診断は視診,打診,触診による診断で明らかな劣化や劣化の可能性がある部位を抽出することが目的である。一次診断には劣化状況の把握,劣化の原因やメカニズムの推定,補修や維持管理に関する助言,コストと時間が適切であることが求められる。このときの助言には,木材劣化診断士の資格のみでは建築士の範疇である寿命の判定まではしてはならないという注意があった。

次にシロアリの生態や進入経路,甲虫害,腐朽について講義が行われた。一次診断の重要な事前準備は,戸建住宅を行う際には3時間程度で診断が終わるよう,①建物情報の入手,②装備の準備,③点検口の確保と養生,④構造調査を先行させることを心がけること,さらに安全対策と床下などを動き回れるよう装備を少なくし,二人一組で行うことがベストとされた。

一次診断の手順として順次部材を観察し,症状を検出・判定し,劣化部位をマーキング,可能であるならば主要構造部材の含水率の測定,写真撮影と記録を行い,図面への落とし込み,二次診断部位を抽出できるように行う。

重要点とコツは,①外周・内部・床下・小屋裏の順を基本とし,定められた範囲を全て一定の基準で見渡す,②劣化が疑わしい部分を抽出する,③劣化の有無・範囲・種類・劣化の程度を確認し,進行性の判定をすることである。

診断時の目の付け所として①全体現況の把握②部分詳細の把握③総括,因果関係の考察とされ,強度的に重要な部分,維持管理上重要な部分がどこにあるかを短時間で要領よく見定める必要があるとされ,一次診断の単純であるが故の奥深さを感じた。

症状抽出は腐朽・シロアリ・甲虫かどうか,当初状態と健全部との差を見極めることがポイントとなる。このポイントについては,床下の診断を行っている作業者からの視点で録画された映像を視聴し,説明が行われた。蟻道を壊すと中からシロアリが現れる映像,遠めでは分からないが近くで見ることで蟻道と分かるもの,それを狭い中でマーキングしていく様が映し出された。

3.2 二次診断機器の操作(講師:矢田先生)

昼休みを挟み,含水率計,超音波測定器,ピロディン,レジストグラフの使用方法についての説明があった。

3.2.1 含水率計

含水率計の操作方法は,電気抵抗式含水率計と高周波含水率計の違い,高周波含水率計では比重の設定方法について説明された。高周波含水率計は見慣れた機器であったが,電気抵抗式の含水率計は見たことがないものであった。

3.2.2 超音波測定器


写真2 超音波測定器

超音波測定器は,電力会社の電柱の検査が始まりで,その時の判断基準は健全部と比べ約1.8倍伝播速度が遅い場合には交換と判断されていた。非破壊で確認したい場合には有効である。(写真2)。

3.2.3 ピロディン

ピロディンは筒の中にバネで飛び出す太めの針が入っており,筒の後ろをたたくことで,バネの一定の力で針が出てくる。
この一定の力で針を差し込んだときの抵抗の違いは,打ち込み深さの違いとして現れる。
診断対象の健全部と比較して健全部との打ち込み深さの比較で劣化の有無が判断される。

3.2.4 レジストグラフ


写真3 レジストグラフ

レジストグラフは細い錐を回転して穿孔させながら,その抵抗を読み取る機械である。
レジストグラフは貸し出しが開始されるが,錐の取り付け位置を間違えると機器が故障するため,その錐の取り付け方の指導が特に重点的に行われた。各自取り付けを実地研修した。見えにくく,感覚的な部分もあり,苦戦する人も見られた(写真3)。

3.3 二次診断

写真4 超音波測定器 実地講習風景


写真5 レジストグラフ実地講習風景

グループ分けの後に腐朽材サンプルを用いて,それぞれの機器の操作を行った。サンプル材はシロアリに食べさせたもの,過去に調査された鳥居の大断面を切り出したもの,腐朽した梁など多種多様であった。

含水率の測定は深さ・比重の設定を確認し測定を行った。

ピロディンの操作では健全部と腐朽部の違いを確認した。ピロディンの前蓋が外れてしまうというハプニングもあったが,これに対して慌てずに講師の方が対処する姿を目の前で見ることができたのは実地研修ならではであった。

超音波測定器については,洞の部分,洞ではあるが材面に現れていない部分,健全部をそれぞれ測定し,材料に書き込んでいった。

サンプル材を打診し,音が変わる部分を見定めて測定する者,大きな洞がある部分を測定する者,わざと受発信部分を同じ材表面に置いてどのような数値になるか確認する者などさまざまで,サンプル材に測定超音波伝達速度マップが出来てしまうほど,受講者は熱心に機器の取り扱いを研修していた(写真4)。

レジストグラフは,電子データとチャート紙でのデータ収集が可能である。実地研修では電子データのナンバリング方法や,チャート紙の差し込み方のコツを指導頂いた。若干持ち方に慣れが必要で,装置と材の位置をまっすぐにすることに手間取ったが,トリガーを引く感覚と錐の打ち込み速さの感覚を感じ取った。チャート紙では実寸でその抵抗が表れるため,打ち込んだ部分の上にチャート紙を載せて,内部の様子をイメージできるようにし,打診を行って音の違いを確認できるようにする者もいた(写真5)。

3.4 報告書の書き方と注意点(講師:藤井先生)

写真6 作成中の支援ソフトの解説

報告書の書き方の構成は,表題,調査概要,調査結果(データ)と解説,アドバイスで,データのまとめ方,提示範囲,提示方法についての説明があった。

そして現在作成中(平成26年7月15日時点)のWeb対応型の報告書作成支援ソフトウェアの解説がなされた。これは報告書の基本構成の入力雛形があり,雛形に沿って入力することで報告書が作成できるものである。

Web上での入力で,サーバー内に入力情報が残らない方式をとっており,個人情報の保護にも努めている(写真6)。

4.まとめ

この講義において実際の機器に触れて,頭の中だけでなく感覚としても知見を得られ,非常に有意義な講習であった。感覚として学べたことは,いざ本番という時には強い支えとなる。

今後,公共建築物等木材利用促進法などにより,建築物への木材利用が活発となると予想される。

木材劣化診断に特化した資格は,他に似た資格が見当たらないことが特徴である。木造建築物の診断を行うのに,法人が認定する資格を有することは,より診断の結果に信頼が得られるものであると考える。それと同時に,その信頼は個々の診断士の活動が重要になってくるものである。私もその信頼を裏切らぬように努めていきたい。

越井木材工業株式会社
駒木根泰悟

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