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飲料自動販売機―その後
虫めがね vol.45 No.3 (2019)
飲料自動販売機は、今では日本中いたるところで見ることが出来る。バスの停留所、学校の食堂や体育館、駅のホーム、飛行場、映画館、町の集会所など、人が集まる所にはほとんど置いてあり、喉が渇いた時は手軽に飲み物を買うことが出来る。無人なので人件費は節約できるし、二十四時間、夜間でも購入できるなどの利点があり、大幅に普及している。いまでは、飲料販売総量の大半を自販機による販売が占めていると言われている。自販機で販売している方式には、缶入り、紙パック入り、ペットボトル入りのように、密閉容器に入った方式もあるが、流れ出てくる飲料を紙カップで受け取る方式もある。
嘗て、わたしは大学の学生の卒業研究で、飲料自販機内に侵入する昆虫類を調査したことがある。その結果、ゴキブリ、チョウバエ、コバエ類などの昆虫類が侵入すること、そして、それらの昆虫類の体表から、サルモネラやセレウス菌などの食中毒原因菌が検出されたことを明らかにした。わたしはこのことを学会(日本環境動物昆虫学会・二〇〇九年の年次大会)で発表した。そのことは、このコラムでも簡単に触れている(木材保存・三九巻一号)。この発表は当時、朝日新聞にも取りあげられた(二〇〇九年十一月十三日夕刊)こともあり、ネット上で拡散した。そして、日本自動販売機協会の役員の方が大学に来られて、わたしの意見を求められたこともあった。その後、いろんな人から、「あの報告を読んで、カップ式の自販機の飲料は飲まないようにしています」と聞いた。また、ある友人からは、カップ式のコーヒーを飲んだところ、カップの底にゴキブリの脚の欠片が沈澱していたことなどを教えてくれた。通常、人はこれをゴキブリの脚の一部とは気が付かないだろう。単なる小さなゴミと思うだろうが。
あれからほぼ十年を経過し、わたしはほとんど忘れかけていた。ところが最近になって、ある友人から、「近頃はカップ式の自販機は少なくなりましたね」と言われた。それで、街に出かけた時に気を付けて見ると、わたしがこの調査をした当時は、まだ、カップ式の自販機があちこちで見られたのに、今ではたしかにカップ式の自販機は見かけなかった。代わりにペットボトルと缶が大勢であった。
自販機の会社に確認したわけではないので、正確なことは分からないが、先のわたしの調査報告の結果、自販機会社も改善に努めたのか、今ではカップ式の飲料自販機は極めて少なくなったのは事実のようだ。
♪ゴキブリに生き方学ぶ三億年
(赤タイ)