ホーム > 木材保存誌コラム > 虫めがね > ホタルにも方言がある
ホタルにも方言がある
虫めがね vol.40 No.5 (2014)
近ごろはホタルを見ることは極めて少なくなった。今では、ホタルが見られる場所は、「ホタルの里」とか言って、観光客にPRしている。私が子どもの頃に育った福岡の田舎では、我が家の前を流れる小川には、夏になると毎晩ホタルがたくさん飛んでいた。最近、久しぶりに田舎に帰って尋ねると、今ではその小川ではホタルは見られないそうだ。ホタルが見られなくなった原因として、農薬や洗剤などの化学物質が疑われているようだが、それも否定はできないが、むしろ川の護岸工事などで、ホタルの幼虫の餌となるカワニナなどの貝類が生息できなくなったことが大きい。
子どもの頃、夕食を済ますと、うちわを持って、前の小川に行き、「ほーほーホタル来い、あっちの水は苦いぞ、こっちの水は甘いぞ」と蛍狩りに行ったものだ。金網で作った蛍籠を持って行き、捕まえたホタルをその籠に入れ、水辺のホタル草などを入れて持ち帰った。餌として、砂糖水を浸み込ませた脱脂綿を入れておけば、家でもしばらくの間はホタルのほのかな光を楽しむことが出来た。
小川などで、大きなホタルが光っているのはゲンジボタルである。ホタルは光をコミュニケーションの手段にしている。オスはピカリ、ピカリと光りながらメスの光を求めて飛び回る。メスに対して求愛の信号を送っているのだ。そして、メスを見つけると近くに止まり、パッパッと短い間隔で光を点滅させる。メスがこれに答えてパッと一回光れば、求愛が成立する。ここで、メスからの応答がなければ、オスはあきらめて飛び去るしかない。
ホタルが光るのは、ルシフェラーゼという酵素の働きでホタルの体内でルシフェリンが酸素と結合し、オキシルシフェリンに変化する。その時に生じるエネルギーが光エネルギーに転換して蛍光を発する。これは熱を介していないので、風や水で消えず、手で触っても熱くない。むしろ冷たく感じる。
ゲンジボタルのオスが同じ木に沢山集まり、集団で同時に発光することがある。この時の点滅間隔は、西日本では二秒間隔、東日本では四秒間隔と、地方によって点滅間隔に違いがあることが分かっている。境界の長野県付近では中間の三秒型もいる。ホタルにも東京弁と関西弁と言うような、方言があるようだ。ホタルの世界では、関西より関東の方が点滅間隔が長くのんびりしているのだろうか。
(赤タイ)