木材保存誌コラム

ホーム > 木材保存誌コラム > 虫めがね > ワカメが逝く

木材保存誌コラム

ワカメが逝く

虫めがね vol.42 No.1 (2016)

今年の十月十四日午前、わが家の飼い犬「ワカメ」が逝った。享年一九歳。犬の年齢に六を掛けると、ほぼ人間の年齢に相当すると言われているので、ワカメは人間で言うと百歳を超えた老人に相当するのは確実である。大往生である。一九年前に、近所の方が生まれて間もない子犬を飼いませんかと持って来たので飼い始めた。メスの雑種である。

飼い犬が一五歳に達すると、阪神開業獣医師会から長寿犬表彰をもらえるが、ワカメはそれを五回もらった。「五回ももらう飼い犬は珍しいですね」

掛かりつけの獣医師さんから、そう言われた。表彰状には、「あなたはよき人生の伴侶として永年にわたり家族に喜びと楽しみを与えてくれました。よってここに長寿を讃え表彰します」とある。

わが家にとってワカメの存在は何ですかと問われると、この表彰状に書かれている内容に尽きる。わたしが仕事に疲れて帰路につき、わが家に近づくと私の足音か匂いを察知して、遠くから「ワンワン」と吠えて私の帰宅を歓迎する。また、女房がワカメを連れて散歩中に、近くのバス停から歩いて帰ろうとする私の姿を見つけると、遠くから全力疾走でダッシュして私に跳びつき迎える。

でも、一五歳を過ぎた頃から様子が変わる。わたしが歩いてわが家に近づいても、ワカメは何も気が付かず眠っている。玄関のドアを開けてもまだ気が付かず、ドアをバタンと閉めると、ようやくその音に気が付いて起き上がってくる。「この犬も最近は横着になったなあ」と思っていたが、そうでは無いようだ。高齢化で、耳が遠くなり、目も鼻も利かなくなったらしい。頭もボケてきたようで飼い主とそうでない人の判断もあいまいになったようだ。

犬の老後を見ていると、人間の高齢者と同じである。九五歳の母親の介護をしているという友人がいるが、彼によると、「失礼ですが、いつもご親切にしていただくあなたはどちら様ですか」と自分の息子に尋ねると言って苦笑いしていた。ワカメも晩年は立って歩けなくなり、寝たきりの老犬になった。排泄もオムツを付けてやる。自分では食べられないので、抱きかかえて食べさせてやる。食べ物の嗜好も変わった。以前は、肉や魚は好物で一口で食べていたものが、食べなくなった。そして今まで食べもしなかったプリンとか、あんパンなどの甘い物を食べるようになった。最後はそれも食べなくなり、流動食を飲むだけになる。そして、静かに逝った。

♪うちの犬女房にだけは尻尾振る

(赤タイ)

  < 石切山のセミたち
コラムトップ
お爺ちゃん、お婆ちゃんは、なぜ孫が可愛いのだろうか? >

ページトップ