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味覚センサー

虫めがね vol.38 No.6 (2012)

人は甘い、酸っぱい、旨い、苦いなど、食品の味を見分ける能力を持っている。これは甘いもの(糖分)はエネルギー源であり、旨いもの(アミノ酸など)は体の構成に必要なものだから沢山とろう。苦いもの(アルカロイドなど)や酸っぱいもの(腐ったもの)は体に悪いので食べないようにしようという、自己維持の為のセンサーと考えられる。

子どもたちは大人に比べて、甘みのセンサーの感度が高く、甘いものが大好きである。これは、子どもは活動が活発であり、それだけエネルギーが多く必要なことを示している。

人類が地球上に誕生して、約五百万年経つ。森林の木の実や根、草原の昆虫や小動物などを食べながら生きてきた。その間に、ある人は食べてはいけないものを食べて、食中毒などで死んでいった。その子孫は当然残らなかった。味覚センサーが鋭く、有害なものを的確に見分けた人は生き延びて、現在の我々の先祖となった。

このような味覚センサーは、人間に特有のものではない。我が家で十年以上飼っているメス犬がいるが、かの女は食べて良いものかどうかを鋭い嗅覚で識別している。腐ったものは食べない。それだけではなく、体調が悪いときなどは、草むらに入り、日ごろ食べもしない雑草をむしゃむしゃ食べている。解毒剤だろうか。誰かが教えるわけでもないが、漢方薬的に雑草を食べているようだ。

エストリアとロシアの国境沿いにペイプシ湖という大きな湖がある。二十世紀の中ごろ、この湖のある無人島で野生のサルやチンパンジー、オランウータンを放って自然に飼育した。これらの動物は各地から集められたものなので、この無人島は未知の場所である。この未知の場所で木の実や草の根を食べ、昆虫や小動物を食べて生活したわけである。植物や小動物・昆虫の種類は豊富であるが、その中には有毒な植物や有害な昆虫類も沢山あった。ところが、ここに放たれたサルたちは、これらの有毒・有害なものを食べて体調を悪くしたり、死んだりしたものは一頭もいなかったそうだ。人類は約五百万年前に、彼らと共通の祖先から分かれて人類として進化していったが、現代人はこれらのサルたちのような鋭い味覚センサーはもはや持ち合わせていないだろう。現代の我々は食べられる植物として栽培された野菜や果物、漁師が獲ってきてくれた魚や、肉屋が提供してくれる肉類など、食べ物の有害・有毒は、今や他人に依存しており、自分で判別することはほとんど無くなった。それゆえ個人の味覚センサーの鋭鈍が生死に直結することは無くなった。それだけではなく、祖先たちが避けてきた辛い味の食品を、キムチや激辛ラーメンとか言って食べているし、苦い抹茶や、コーヒーを楽しんでいるという変な生物に進化した。

(赤タイ)

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