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ゴキブリはいますか?

虫めがね vol.38 No.2 (2012)

「あなたの家にゴキブリはいますか?」

フランスの友人、ムッシュ・ゴーシェから聞いた話であるが、フランスで家庭の主婦にこの質問をすると99%の主婦は次のように答える。「いいえ、うちにはいません!日頃から家の中はきれいに清掃していますのでね」

私が四年余りロンドンで生活していた時の経験では、ドイツ人、イギリス人、スイス人なども、ほとんど先と同じような返事であった。これらの国々でも暖房が効いた屋内ではチャバネゴキブリが必ず居る。因みにチャバネゴキブリは英名でGermancockroach(ドイツゴキブリ)と言う。別にこのゴキブリの原産地がドイツと言うわけではないが、生物の学名に二名法を体系づけたスウェーデンの生物学者リンネが付けた学名Blattella germanica に由来する。

ゴキブリはどこの家にもいる筈なのに、そのことを認めたがらない。ゴキブリが家の中にいることを認めることは、家の中の清掃を十分やれていない、だらしない主婦であることを自ら認めることになる。それでは認める訳にはいかないだろう。

パリの中心部から北東へ車で約四〇分走ったところに、シモン・ソリバという名の通りがある。この地域のアパートのゴキブリ駆除に立ち会ったことがある。五階建てのビルで、一階部分は花屋などの商店が入っているが、二階以上はアパートになっている。このアパートには四〇戸あまりの家族が入居している。アパートの管理人によると、ベトナム人、アラブ人、黒人、カンボジア人なども多く住んでいるそうである。早朝八時に現場に直行した。そして、アパートの管理人の許可を得てマスターキーを借りて、一戸ずつ鍵を開けて中に入り、ゴキブリ駆除用殺虫剤を処理して回った。

まず、最もゴキブリが多く潜んでいると思われる台所、風呂、トイレを先にやり、次に居間、寝室の順に処理していく。居間や寝室でゴキブリの姿を見ることは少なかったが、風呂や台所ではチャバネゴキブリがゴソゴソと這い出てきた。冷蔵庫の裏側の暖かい場所には、何故か紙くずやゴミが一杯つっこんである家が多く、そこにはゴキブリが住み着いていた。紙くずやゴミを掻き出すと一緒にチャバネゴキブリがゾロゾロと這い出てきた。はなやかで、華麗なパリという大都市を裏側から見ている思いがした。

さて、日本の家庭の主婦に同じ質問をしたら、どのような答えが返ってくるだろうか、興味あるところである。

(赤タイ)

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