ホーム > 木材保存誌コラム > 虫めがね > クマゼミの初鳴き
クマゼミの初鳴き
虫めがね vol.37 No.6 (2011)
今年の夏のクマゼミの初鳴きは七月二十日であった。筆者が勤務する大学は高台にあり、学舎に至るまでにかなり長い坂道がある。坂道の両側には桜の木が立ち並び、春には桜の花吹雪が舞い、良い景観を呈している。この坂道を毎日登って出勤しているわけであるが、ここを登りながら、初めてクマゼミの鳴き声が聞こえた日を、毎年記録している。初鳴きの日はここ十年くらいほとんど変化しておらず、ほぼ七月十五~二十日の間である。地球温暖化の影響で初鳴きは年々早まっているのではないかという人もいるが、ここの坂道に関する限り影響はなさそうだ。もっとも地球温暖化の影響は十年くらいのスパンで考えるのではなく、数十年のスパンで見るべきことかもしれない。
筆者は福岡県の田舎で生まれ育ったが、小学生の頃の夏休みの日課はセミ採りに行くか、近くの溜め池に水浴びに行くのに決まっていた。小学校の夏休みの宿題として、絵日記というのがあった。これは一日の生活で今日は何をしたかを絵と文章で書いて、夏休みが終わると学校に提出しなければならない。海水浴や遊園地などには、頻繁には連れて行ってもらえるわけではない。かといって何かしなければ絵日記に書く題材がない。しかして、セミ採りに行くか、水遊びが頻繁に絵日記に登場することになる。
夏のおとずれと共にニイニイゼミが現れ、ついで、アブラゼミが鳴き始める。夏の最盛期になるとクマゼミが登場する。夏休みも終わりに近づくとツクツクボウシが現れる。これらのオスとメスを捕まえて標本にして、夏休みの宿題作品展に出展するのである。当時はニイニイゼミ、アブラゼミは沢山いて、捕まえるのに苦労しなかった。しかし、クマゼミやツクツクボウシは少なかった。あの透明の翅を持った大きな体のクマゼミを捕まえた時には、うれしくてセミ取り仲間に見せて自慢したものだ。
ところが、筆者は現在は関西に住んでいるが、我が家の近くの公園でも、勤務先の大学の坂道でも、アブラゼミの声はするのだが、大勢はクマゼミのあの大きな声ばかりである。関西の現象かと思って、地元の人に尋ねると、「いや、私が子どもの頃は、アブラゼミが多く、クマゼミは少なかった」とおっしゃる。アブラゼミが減って、クマゼミが隆盛を極めているらしい。なぜそうなったのか不思議に思うが、地球温暖化や、自然環境の劣化と関係があるらしい。周囲が山々に囲まれて、自然環境が豊かなところでは、今でもアブラゼミが多数を占めているが、森林とは離れて存在する都会地にある公園、たとえば、大阪では大阪城公園や万博公園などではクマゼミだらけである。
クマゼミの多少は自然環境破壊の指標となるかもしれない。
(赤タイ)