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カエデをめぐる昆虫
木くい虫 vol.39 No.6 (2013)
近畿地方でも高い山では紅葉の季節を迎えた。里のカエデが色づくのももうすぐであろう。日本にはイロハモミジ、イタヤカエデ、ウリカエデ等20数種のカエデ科植物が分布しており、いずれも紅葉(種類によっては黄葉)が美しい。しかし、カエデの花を知っている人は少なく、ましてやそれを愛でる人はよほどの変人であろう。サクラが花吹雪となるころカエデ類は順次開花する。カエデの花は春の昆虫のご馳走であり、多くの昆虫が花粉や花蜜を求めて集まる。なかにはそれらの昆虫を狙う捕食者も含まれている。昆虫愛好家にとってはカエデの開花が観察・採集シーズンの幕開けである。
カエデの花から得られる昆虫の中でも筆者がとくに好きな仲間はカミキリムシである。カエデノヘリグロハナカミキリ(写真)という舌を噛みそうな名前のカミキリムシはなかなか格好が良く、最初に採集したときの感動は今でも忘れられない。今年の5月に信州伊那を訪れ、満開のカエデの花からハナカミキリ類、トラカミキリ類、ヒゲナガコバネカミキリ類等多くのカミキリムシ科昆虫を採集した。なかでもツジヒゲナガコバネカミキリは最近発見された稀種である。
カエデ類を加害する害虫の多くは葉を食害する種であり、それらは樹木を枯らすことはない。一方、幹や枝に穿孔して樹木を枯らす害虫もいる。なかでも厄介な種はゴマダラカミキリである。本種は農業分野では柑橘類の害虫として恐れられているが、宿主範囲がかなり広い。筆者の自宅の庭のイロハモミジも本種の加害をうけて枯死した。害虫防除の専門家(?)を自負する筆者にとってはまさに「灯台下暗し」であった。
(M・H)