オトシブミ
木くい虫 vol.39 No.4 (2013)
昔の人は思いを寄せる人に宛てた恋文を折りたたみ、その人が通りそうな場所にそっと落しておいたそうである。その恋文が「落し文」である。恋の成就は、意中の人が「落し文」を拾って読んでくれるかどうかにかかっている。なんとも奥ゆかしい。今の若者ならメールで済ませ、結論はすぐ得られるであろう。その「落し文」の名前を持つ昆虫がいる。○○オトシブミと呼ばれるコウチュウ目、オトシブミ科の昆虫である。オトシブミ科の昆虫は成虫が葉を巻きその中に産卵する。巻いた葉は揺籃と呼ばれ、孵化した幼虫はその揺籃を内部から摂食して成育する。いうなれば、揺籃は幼虫の食物兼住居である。幼虫が一生食べるだけの食物と安全な住処を確保する母虫の努力には頭が下がる。オトシブミという名前は、揺籃の形が「落し文」に似ていることに由来する。
写真はヒメゴマダラオトシブミの揺籃であり、左上の写真はその成虫である。本種はエノキやエゾエノキの葉を巻く。本種の揺籃は樹上に残るが揺籃を切り落とす種もおり、地面に落ちた揺籃はまさに「落し文」である。ヒメゴマダラオトシブミの揺籃は目立つが、本種の成虫を見かけることは少ない。エノキの葉は本種の他に、以前紹介したオオムラサキをはじめ、ゴマダラチョウ、テングチョウ等の幼虫の餌資源としても利用されている。
オトシブミ科はオトシブミ亜科とチョッキリ亜科に分けられ、オトシブミ亜科の全てとチョッキリ亜科の一部の種が揺籃を作る。日本には揺籃を作るオトシブミが約30種棲息しており、初夏の頃、クリ、クヌギ、コナラ、ブナ、エゴノキ、ケヤキ、ハギ等でオトシブミ類の揺籃を見ることができる。オトシブミ類の多くの種は樹木の葉を巻くので、樹木の害虫とも言える。しかし、消費する葉の量は少なく樹木が枯死することもないので、この可愛い昆虫のために大目に見よう。
(M・H)