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風雅な名前の昆虫︱スミナガシ︱
木くい虫 vol.38 No.2 (2012)
名は体を表すという。誰でも知っているモンシロチョウ(紋白蝶)は「紋のある白い蝶」という意味でどんな昆虫であるかすぐ見当がつく。最も短い和名であるイガは「衣蛾」の意味で衣類の害虫である。コナガは「粉蛾」ではなく「小菜蛾」であり、アブラナ科蔬菜を食害する農家の大敵である。ところで最も長い和名の昆虫をご存知だろうか?カタカナで22文字もあるリュウキュウジュウサンホシチビオオキノコムシという舌を噛みそうな名前である。漢字で書くと「琉球十三星ちび大茸虫」となり、琉球に棲息する13個の斑紋がある小さなオオキノコムシ科の昆虫という意味である。筆者は実物を見たことが無いが、名前からどんな昆虫か類推できる。ギフチョウ(岐阜)、ナガサキアゲハ(長崎)のように最初に採集された場所の地名から付けられた名前も多い。このような和名には分かりやすいという利点はあるが、なんとなく味気ない。
昆虫の和名には上記のような付け方をするものが多いが、中には風雅な名前を付ける昆虫学者もいる。そんな中で筆者のお気に入りは「スミナガシ」(写真)、昔宮中で行われた遊び「墨流し」にちなむタテハチョウ科の蝶である。確かに墨を水面に流したような模様の翅を持っている。スミナガシは青森県から八重山諸島まで広く分布するが、個体数が少なく比較的珍しい蝶である。本種の幼虫は、アワブキ、ミヤマハハソ、ヤマビワ、ヤンバルアワブキ等のアワブキ科の植物の葉を食べる。筆者の住む大阪府では年2~3回発生するようであり、成虫は5月と7~9月に見られ、クヌギなどの樹液を訪れる。
本種の食樹であるアワブキ科植物はどのように利用されているのであろうか。ヤマビワの材はかつぎ棒や器具の柄などに使われていたそうであるが、今はどうであろうか。アワブキの材は割れや狂いを生じやすく木材としては適さないため、薪として利用される程度である。したがって、アワブキ科は本誌の読者にはなじみの少ない樹種であると思われる。
(M・H)