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2023年メッセージ
平素より(公社)日本木材保存協会の活動に、格別のご理解とご協力を頂き、厚く御礼申し上げます。
このたび本協会の会長に就任しました。今後ともよろしくお願い申し上げますとともに、一言ご挨拶を申し上げます。
古来、私たちは生活必需品のほとんどを、身近な自然から与えられ、また調達してきました。森林からは、新鮮な空気(酸素)、清らかな水を与えられ、また食料となる動植物、薪や炭といった燃料源、繊維質・紙の原料、薬品、そして住宅、家具や道具の原料となる木材を調達してきました。産業技術が発達した現代では、森林は多くの項目で原料の主要調達源ではなくなりましたが、依然として建築用材や紙の原料となる木材の供給源としては重要な位置を占めています。それどころか、現代では、地球温暖化抑止の観点から、化石資源の利用の抑制が求められる中、木質資源の有効性が、再認識されつつあります。
木材には、天然物由来の様々な特性があり、これを活かした利用方法がこれまで多数開発され、実用化されてきました。しかしなお木材には、「燃える・狂う・腐る」という3つの特性があり、これらは利用に際しては欠点と認識され、これを克服する技術の開発が進められてきました。
当協会は、これらの欠点のうち、「腐る」に象徴される生物劣化について、その機構解明や対策に取り組んでおられる研究者(大学や試験研究機関)、技術者(企業)、そして行政の方々の交流や連携を図るべく活動して参りました。その営みは、本協会が社団法人化される1978年 (昭和53年)より遡り、その前身となる「木材保存研究会」の発足(1924年 (大正13年)から数えますと99年の長きにわたっています。また近年では、「燃える」という欠点についても、産学官連携のもとで技術開発支援の営みに取り組んでおります。
「木材を有効に、長く使う」ための技術開発の太宗は、いわゆる保存処理に代表される一連の技術と考えられます。その技術の仕向け先は、かつては電柱や枕木の保存処理でしたが、その需要の急減に代わって、高度経済成長期には、拡大していく住宅生産のために主要構造部材の保存処理となりました。本協会とこれに関わる産業界では、これらの2つの需要の波が求める技術開発に勤しんできました。
一方、今後は少子高齢化や人口減少にともなう需要の減少が見込まれるなか、既存ストックの優良化や活用、商業建築、公共建築、土木や外構利用などへの展開が第3の技術開発のポイントになると思われます。また、天然物由来の木材ならでは良さを活かしながらも、より品質が管理された安全・安心な材料生産のための技術についても改めて注目しなければなりません。
さらにより利用者サイドの目線に立ちますと、「木材を有効に、長く使う」という視点の先には、「木造建築物を有効に、長く使う」という視点が見えてきます。本協会は、材料としての木材の保存処理について、保存処理剤の認定や、関連の技術開発支援に取り組んでおりますが、建築物の耐久性にも目を向けることも重要です。建築物の寿命(耐久性)は、設計・材料・施工といった建築工事に直結する3要因以外に、環境と維持管理を加えた5要因で決まります。そして木造建築物については、特に後段の2要因の影響は大きいといえます。そしてこのことは工業製品としての木材や住宅の品質管理だけではなく、実際の環境下にある木造の品質管理(quality control of wood in service)を考え、社会インフラとしての木造のありようを見直すことでもあります。この課題は簡単には解決できませんが、木材利用の真価を考える上で忘れてはならない視点と思われます。
鉄鋼、ガラスやプラスチックなどの工業製品は、生産技術や品質管理がグローバル化し、世界共通的な標準が存在します。それに比べて木材・木質建材について、材料や建築様式そのものも、また劣化要因そのものもローカル性のある材料といえます。保存処理についても、国内の事情に則した検討が支配的であると言えます。その一方で冒頭でもふれた地球温暖化抑止といった観点からは、グローバルな視点での取り組みも必要であり、国際レベルでの交流や協力も必要になります。また需要の相当部分を輸入材に依存しているわが国にとっては、国際レベルでの思考も重要です。当協会では、これらの観点から従来から木材保存に関する国際会議IRGを支援し、2025年には日本での3度目の開催を予定しております。
本協会は、「木材の品質及び耐久性の向上を図り、国民生活の向上及び地球環境の保全に寄与する」木材保存の次世代を目指して、さらに活動を展開していきたいと存じます。皆様の一層のご理解とご協力を、何卒、宜しくお願い申し上げます。
令和5年(2023年)6月吉日
公益社団法人 日本木材保存協会
会長 藤井義久
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